グッド・ガバナンスかどうかをどうやって評価しますか――当事者意識の形成という観点から――

先週のガバナンス論は「合意」だったそうです。
授業形式について一部で不満の声を聞きますが、直接言ったらいいと思います。



>ガバナンスにおける合意プロセスで最大の課題は,参加している人たちがどれだけ当事者意識を持っているかということでしょう
赤尾先生の指摘の通り、参加者の問題はあると思います。
同時に人はどのようにして当事者意識を持つのかについて考えることも必要だと思います。


>アツく議論や批判を展開している人たちをシニカルに傍観してしまったりします
逆に周りがアツ過ぎると相対的に自分が冷笑的になってしまう場合も多々……。
「社会システム論?」で学んだ「熱心派と非寛容」の問題で、より不理解や「溝」を感じてしまうおそれがあるでしょう。
「なぜ議論しているのか」「どうやって議論しているのか」「誰が議論しているのか」といったメタな視点は不可欠だと思います。


>当事者意識を持つ人たちで形成した合意に対して,感情論などを持ち出して(あるいは「私は聞いていない」とか),異を唱える人がいるのも困ったものです。
これも「熱心派」によくある不満だとおもいます*1。社会道徳や愛国心は特効薬にはなり得ないだろうし、フリーライダーのくせに文句だけを言う人もいます。
しかし「溝」をつくることは決して良いこととは思えません。もし「当事者意識を持つ人たち」が「溝」をつくることを是としないなら、当事者意識を持たない人を取り込む努力をすべきでしょう。
こうした努力は、一方で「熱心派」の正統性を強化する働きもあると思います。例えば形式的に「みんなの意見」を募集しておいて、実際にはほとんど意見が寄せられていないのに「みんなの意見を反映しました」と主張する。そして「何も言わなかったお前らが悪い」と。
しかし問題なのは、ある権力者が、潜在的な当事者(従ってガバナンスに参加できる)に対して(意図してか意図せずかは問わないが)適切な情報提供を行わず、その結果として潜在的当事者に当事者意識が形成されない場合がある、ということなのです。
そして意志決定が終了した段階で、潜在的当事者たちが当事者意識に目覚めるわけです。「私は聞いていない」、と。
権力者が意図的に情報操作をした場合、非難されるべきですが、意図せずに当事者意識の形成を抑止してしまう場合も考えられます*2
そのための「ガバナンス論」という訳ですね(笑)。


では、よりよい合意のために、何をすべきか?

Consensus oriented

There are several actors and as many view points in a given society. Good governance requires mediation of the different interests in society to reach a broad consensus in society on what is in the best interest of the whole community and how this can be achieved. It also requires a broad and long-term perspective on what is needed for sustainable human development and how to achieve the goals of such development. This can only result from an understanding of the historical, cultural and social contexts of a given society or community.
WHAT IS GOOD GOVERNANCE?

合意に基づく

現在、社会にはそれぞれの視点をもった色々なアクターがいる。グッド・ガバナンスは幅広い社会的合意に達するため、社会における様々な(立場の)調停を求めている。その社会において全てのコミュニティの最も多くの関心のあるものについて、またどのようにしたら目的(幅広い合意形成)を達成することが出来るかについて。グッド・ガバナンスには、持続可能な人間発達に必要とされるものと、こうした発達の目標に到達する方法について、見通しの立った長期的な視点が必要だ。これは、歴史と所与の社会或いはコミュニティの文化的社会的文脈の理解だけが結果をもたらすだろう。
訳:vanya*3

国連は「合意」のために、ある社会(コミュニティ)の歴史、文化、社会的文脈を理解しなさいと言っている訳です(たぶん)。
こうした理解をどうやってよりよい「合意」に結びつけるか、潜在的当事者意識の可視化が重要です。
情報技術は歴史、文化、社会的文脈の理解、及び当事者意識の可視化に貢献するでしょうけれど、いかに活用していくべきかという視点が必要です。


>それではたしてグッドガバナンスが可能なのかどうか――。
この問いかけに意味があるのかどうかは分かりかねますが、理解しようとする努力を欠いて「あのわからずや」と怒鳴る人間にはあまりなりたくはないです。

*1:ええ、分かります、分かりますとも!

*2:例えば一般の人が関わるような問題について難しい言葉で語って、一般の人が理解できない議論にしてしまうなど

*3:"best"の解釈がこれでよかったか……。おかしな点があればコメントください