eポリティクス論の課題

「eポリティクス論」のレポートを晒します。なぜ晒すかという詳細はここにあります。




情報技術は下記のように類型化できる。本レポートでは、「伝える」情報技術について論じていく。

昔からある「伝える」情報技術に道がある。道は特定の都市と都市を結び、人や物を行き来させるネットワークである。人や物と共に情報も都市から都市へと伝達される。
よりマクロな政治的関係として帝国を想定する。帝国の王(皇帝)は広大な土地を支配しなければならず、道の整備はそれを可能にした。
アケメネス朝(前550-330)は道路網の管理を重視することで栄えた王朝である。エジプト、メソポタミア小アジア、イランの4つの地域が1人の王によって支配された。
王としては全ての領地から情報を収集し、また全ての領地に王の意向を伝えたかった。アケメネス朝では道を整備することにより、広大な領地を支配することに成功した(度量衡の統一も支配には欠かせなかった)。
特質すべきことは、アケメネス朝が諸民族・都市の宗教・習慣などにたいして寛容であったことだ。実際、アケメネス朝後期にサトラップ(州の長官)の力が強まり、諸民族に対して非寛容になったために、帝国が弱体化し、アレクサンドロス大王の侵略を許してしまった。
道は都市へと続く。その都市に情報を伝え、またその都市から情報を受け取ることで自分たちがより豊になることを望む。文化非寛容な空気が帝国の道に充満すれば、豊かさへの期待は裏切られる。*1


ミクロな政治的関係として産業技術の選択肢の拡大が挙げられる。農業などの産業技術に関する情報が道を介してある都市に伝達され、旧来の技術に加えて新しい技術を選択することが可能になる。

そして情報はイノベーション性をもつことがある。イノベーションとは、「新しい物質的・非物質的文化現象を導入すること」をさし、イノベーション性のある情報がその地域にもたらされると、その地域に新しい文化や産業を起こす力をもつ。そしてこのイノベーション情報は、非普遍的情報であり非定型的情報にあたる。*2

非電子的な情報技術である道は、西原の指摘する非定型的情報の伝達を可能にした。記号化(形式知化)が困難なイノベーション情報は道を通ってきた人によって伝えられる。
また産業技術だけでなく、宗教などの非物質的文化現象も伝達され、人々に採用/非採用の選択肢を与えることとなる。
更にマクロな政治的問題として、都市全体として異文化からの情報伝達にどう対応するかが問題となる。自由な商売を認めるか否か、帝国の規範を受け入れるかどうか考える必要がある。異文化との交流が盛んになれば、例えば言語的なプロトコルを否応なく「国際標準」に適応させなければならない。ネットワークを閉ざすのも選択肢の1つだ。

上の表が「伝える」情報技術の発展によって成立した情報社会の特徴を表している。
現代情報社会における「伝える」情報技術の主流はインターネットであるが、上の表の中で現代社会にあっては極めて不自然な項目が「王」だろう。
「王」を国家と捉えるのは難しい。確かにアケメネス朝の王は「王の目」「王の耳」という秘密監察官を設置し、地方のサトラップを監視した。国家によるネット規制は存在するが、政治的関心である「支配」と結びつけにくい。道そのものを利用して支配するというより、道のあちらこちらに関所を設けるだけで、積極的に支配したことにならないからだ。
積極性ならGoogle等のほうがある。ユーザ(市民)は検索エンジンというパスを通って目的のサイト(都市)に辿り着く。情報の伝播経路の操作が(するしないに係わらず)可能である。Google八分という言葉もある*3。また広告収入を得ている点で積極的であると判断できる。

*1:宮崎正勝(2003)『文明ネットワークの世界史』原書房pp21-24

*2:西原純(2000)「地域情報学の試み」岡田安功・藤井史朗(編)『情報社会の見える人、見えない人』公人社p240

*3:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%AB%E5%85%AB%E5%88%86