”質”とは何でしょう?

静岡市の図書館に指定管理者制度を導入するという問題で、賛成派は”質の向上”を訴え、反対派は”質の低下”を訴えています。分かりません。意見が食い違っています。双方が主張する”質”とは何でしょうか?
ところで図書館の問題となるとニュートラルな発言ができなくなってしまいます。とにかく市民団体の感じている抵抗感は実に共感できます。なので賛成派バッシング中心で議論を展開します(笑)
取り敢えずここを見ると・・・


賛成派

  1. 専門性や経験を生かした事業が可能
  2. 市民ニーズに合わせたサービスが可能(開閉館時間など)
  3. 経費の削減

反対派
民間だと経費を削減せざるを得ない
→パート・派遣社員が増加
→職員のモチベーション低下
  専門性が育たない
→今まで培ってきた知的財産を継続・発展するのは困難


何となくですけど、賛成派は〈今まで図書館ができなかったサービス〉に期待をしていて、反対派は〈今までの図書館が担ってきたサービス〉の質が低下する(又は不可能になる)ことに懸念しているようでした。
図書館は何のために存在しているのかという根本的な問いになってしまいますが、図書館とは民主主義を底辺で支える生涯学習機関だと思います。もし市民に広く利用して貰えるようなサービスを無批判に受け入れるとすれば、マンガやDVDを中心に貸し出せば良いのです。誰も読まないような文学全集は収集するだけ無駄です。非効率です。けれど「図書館ってそうじゃないでしょ」と言いたい訳です。
”専門性や経験を生かした事業”とは一体何のことか。市民ボランティアは読み聞かせをしているようですが、図書館という機関は単に読書をさせるだけの機関ではありません。読書をすることで何が得られるのかが重要です。図書館には本と人、本と社会、本と明るい未来を繋ぐ事業が求められます(これを図書館の用語で文化活動と言います)。上で挙げた民主主義社会を支えることにも繋がります。こうした文化活動は現在、市民の自主により運営されているケースが多いようです(図書館はそのお世話をする)。これこそ本当の意味でパブリックな図書館事業なのではないでしょうか。市の指定管理者制度を導入しようとしている人たちはどのような事業を望んでいるのか分かりません。児童サービスに関しては児童教育に詳しい人材等を登用するなど、市職員の範疇では難しかったサービスの向上が期待できるという面はあります。
”市民のニーズに合わせたサービス”とは何でしょうか。開館時間の延長でしょうか。開館時間の延長は一見するとサービスの向上のように思えますが、実は質の低下を招きます。労働条件の悪化は人員の増員で賄いますが、経費がかかります。経費削減を目指しているのに、わざわざ経費のかかることをするとは思えません。また図書館員は閉館後に書架の整理や破れた本の補修などを行っていますが、これにかけるだけの時間が十分に確保できない恐れもあります。
でも、今まで図書館員(市の職員)はどれ程のモチベーションで図書館業務を行っていたかは疑問でもあります。長年図書館に勤めている専門家が少ないと言われています。Yahoo!ニュースでは”これまで(指定管理者制度を)導入しているのは図書館行政レベルが低い自治体ばかりだ”とあります。静岡市の図書館を実際に利用したことがないので何とも言えないところがあるのですが・・・。これは県レベルの話ですが「読書県静岡」を目指しているのですから、本来は予算の増加に腐心すべきところです(もっとも政令指定都市になって状況が違うのですが)。民間に委託しなくても成功している例はあります(滋賀県など)。
まだ憶測の域を出ることはできないのですが、市は図書館の意義よりも経費削減を優先しているのではないかと疑ってしまいます(市の意図が見えてこないのです)。こんなニュースもありますし。ただ、現在の図書館運営の質がよほど悪ければ指定管理者制度を導入することも考える必要があるかも知れません。市の考えが不明確と言わざるを得ない今、指定管理者制度を導入するにしても、そのあり方は慎重に検討するべきでしょう。
経費削減は確かに重要です。社会教育委員会議事録では経費”節減”という言葉を使っています。労働条件の悪化や非正規雇用の割合の増加については言及せず、市職員より給与が安いとか人員を減らすということはしませんと説明しているあたり憎いです。
どの位〈指定管理者〉の影響が及ぶのか、市はいくらくらい資金を出すのかという問題もありますが。