いじめ問題における包括的なガバナンス

今日はいじめ問題について考えます。
いじめ問題の重要な対策は閉塞的な人間関係を風通しの良いものにし、もし起こってしまった場合は、いじめに直面した当事者をケアすることが重要です。また日頃から他人を思いやる文化を育てていくことが必要です。

いじめ
①(1)自分より弱いものに対して一方的に(2)身体的、心理的な攻撃を継続的に加え(3)相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わないこととする。(文部省1994年)
②集団内で単独または複数の成員が、人間関係の中で弱い立場にたたされた成員に対して身体的暴力や危害を加えたり、心理的な苦痛や圧力を感じさせたりすること(都立教育研究所)
③単独、または複数の特定人に対し、身体に対する物理的攻撃または言動による脅し、嫌がらせ、無視等の心理的圧迫を反復継続して加えることにより苦痛を与えること(警視庁保安部少年課1994年)
*1
学校(学級)でいじめが起こった場合、教師が取り得る行為としては

  1. 上に報告する
  2. 集会を開く
  3. 当事者と個別に面談する
  4. 様子を見る

が、考えられます。
1.、2.は風通しを良くする方策です。
3.は当事者のケアを重視する方策です。

傍観者の問題


これは有名な森田洋司(1986)の「いじめの4層構造」の図です(簡略)。
是認・黙認の層がいじめを強化・促進していることを指摘しています。
傍観者もシステムに含まれているという当事者意識が必要です。
「私は悪くないから」「いじめとは係わりたくない」という醜い深層心理が人間関係の壁を作ってしまいがちです。悪くなくても責任は生じる(社会的責任)し、いじめとは既に係わっているはずです。年中無休24時間体制の電話相談窓口(0570-0-78310)を「葛藤を抱える傍観者」こそ利用すべきだと思います*2
加害・被害のサイクルに含まれると、いじめに直接係わった印象を受けます。傍観者はただその事実を(よく)知っているだけです。しかし「関係のない生徒を巻き込みたくない」とかそういう理由で問題をなかったことにするやり方は頂けません。学級は社会であり、人間関係の壁をつくっている当事者の社会的責任を放棄することを肯定することに他ならないからです*3

当事者のケアや再発防止について

文部科学省はいじめられる子の立場に立つそうですが、同時にいじめる側の児童・生徒には厳格に対処する構えを示しています*4。逆に「いじめられる側も悪いんだ」という議論もあります。「いじめる側の常套句だ」とか、いじめられる側にエールを送っている意見とかいろいろあります。
全体的に「いじめる側が悪い」という人が多そうですが、どちらの議論も議論が噛み合ってないというか、特定のいじめ問題を取り上げてアレコレ言うのではなく、自分の体験or決めつけによって意見を言っている感じがします。「いじめ」という言葉を使って「いじめ」と呼ばれている問題を一括りに考えているようです。定義も広範囲ですし。
被害者の心の傷を回復してあげることが肝心なことだと思います。また「いじめられる側にも原因がある」派の意見でよく見られる、いじめに負けない強い心を如何にして築き上げるかも取り組むべき課題だと思います*5。家庭、学校など周囲からのエンカレッジが必要でしょう。
いじめる側についてですが、いじめる側はいじめが公認された時点で加害者の烙印を押される訳ですから、被害者と比べて発言の可能性が低いはずです。いじめる側の心理が不透明な状態で議論すると、いじめられる側に寄りがちな展開になります。いじめを防ぐという観点からも必要なことです。
4層構造の外側の層の人々もケアも忘れてはなりません。いじめとは何だったのか話し合う時間が大事です。

いじめはなくならない?

「いじめはなくならない」という考えもあります。しかし、だから「仕方ないよね」で終わらせるのは誤りだと思います。なくならなくても、減らすことはできると思います。

7年度 8年度 9年度 10年度 11年度 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度
小学校 26614 21733 16294 12858 9462 9114 6206 5659 6051 5551 5087
中学校 29069 25862 23234 20801 19383 19371 16635 14562 15159 13915 12794
高等学校 4184 3771 3103 2576 2391 2327 2119 1906 2070 2121 2191
59867 51366 42631 36235 31236 30812 24960 22127 23280 21587 20072

この図は『文部科学白書』のデータを元に作成したものですが、ここ最近、減少傾向にあるようです。

その他

いじめの隠蔽体質について書こうと思っていましたが、上手く議論が乗っからなかったので、又の機会に書こうと思います。
また、あまりガバナンスっぽくなかったかも知れませんが、一応ガバナンスの問題を散りばめたつもりです。

*1:http://www.mext.go.jp/b_menu//shingi/chousa/shotou/040/shiryo/06120716/005.htmなお、いじめの定義に関してはhttp://www.nara-edu.ac.jp/CERT/April07/html/chapter1/01.htmlにも詳しく載っています

*2:文部科学省(編)『平成18年度文部科学白書』国立印刷局p94

*3:いじめを巡るガバナンスの当事者として含まれていて、中々気付かないために問題が深刻化している

*4:文部科学省(編)『平成18年度文部科学白書』国立印刷局p109

*5:こころのガバナンスと言えるかも知れないですね。