情報学部でガバナンス論をやる意味

情報学部でガバナンス論をやる意味について考えることがあったので今回はそういう話です。普通、情報っていうとパソコンとかネットとかITのイメージがあるでしょう? ただIDプログラム*1ではそれ程ITを強調しないですし、元学部長が「石ころも(人によっては)情報」と言うように、〈情報〉とは意味するところの広い学問の対象になってしまいます。〈情報学〉はあらゆるものを対象にします、と言っているようなもので、〈情報学〉は学問全てを指し示すかのように感じられます。多様な専門分野の先生が集まるIDプログラムにおいては極めて都合の良い解釈だなぁと思った訳です。
一方で、「情報学部生なんだから少しは情報技術についての教養や関心を持ちなさい」みたいな事も言われる訳で、学生側としては「何でも〈情報〉じゃなかったのかよ!?」と戸惑うのです。


先ず、「CS=理系、ID=文系、IS=中間」というよくある理解なんですが、正確ではないと考えています。情報学部は仮にも文工融合を謳っている学部ですから、「CS=文系よりの工学系、ID=工学系よりの文系、IS=両方(選択可能)」と言った方がいいのではないでしょうか。CSの外側には工学部が、IDの外側には人文学部が広がっているのです*2。こうしたプログラム制の認識においては、「情報学部生なんだから少しは情報技術についての教養や関心を持ちなさい」という批判は説得力を持ちます。


IDでは(ISのように)システム設計・構築を目指しているのではなく社会設計を目指しています。以下は藤井先生のインタビュー記事です。

 IDプログラムは『情報社会政策プログラム』という案もあったんですよ。デザインか政策か、どっちにしても新しいものを作り出すイメージです。その意図は『文工融合』なんです。理学は真理探究だけれども、工学は(真理はあるけれども)とにかく新しいものを作り替えていく。社会科学も真理、現実はどうなっているのかといった観察・思考・解釈の学だったんです。『結局日本は階級社会だからダメなんだよ』と言っていても仕方がない。現実にどうやればもっと良くなるのか。解釈をして大袈裟な判断をするよりも、工学がやっているように『良い社会、良い社会』というように実践、デザインの観点を入れたい、そこで情報社会デザインプログラムができました。企業のデザインもあるだろうし、モラルのデザインもあるだろうし。
http://s1.muryo-de.etowns.net/~tanitoriTai/int/interview_community-design.html

情報学部の中でデザインに力点が置かれた〈文〉のすべきことは〈情報社会〉の設計・構築ということになりますが、〈情報社会〉を理解する上で、情報技術が人や社会に与える影響について理解する必要があるでしょう。けれど現代社会という文脈を外して考えることはできないはずです。(現在の)情報技術では解決できない社会の問題にも目を向けていかなければより良い〈情報社会〉は築けないと思います。
そこでどこまでを〈情報社会〉と捉えるかは人によって違ってくると思います。例えば情報学部では家族のありかたについて研究する人もいますが、その研究に一箇所もITが含まれていなくても〈情報社会〉という大きなうねりの中に家族の問題があるため(かなり)広い意味で〈情報社会〉のデザインと言えないこともないのです。
どこまでを〈情報社会〉の問題とし、どこまでをそれ以外の〈現代社会〉の問題とするのかという区別は非常に難しいと思います。例えば知財の研究を考えると、ITが登場しなくても〈情報〉についての研究だとは直感的に感じるでしょう。
そこで最大公約数としての〈情報社会〉デザインの基盤としてガバナンス論が登場したのではないかと考えています。計算機科学の人がより良いコンピュータを設計するためのアルゴリズムを学習するように、より良い(情報)社会を設計するためのアイディア(idea)を学ぶ必要があるからです。
vanyaの考えでは〈情報社会〉のデザインには3つのアプローチがあります。

  1. インターネットなどの情報技術を社会的にどう規制・活用するか(ITをガバナンスする)
  2. 情報技術を使って政治や経済、文化、市民活動などをどのように促進・支援するか(ITがガバナンスを助ける)
  3. 情報技術によって変革した社会をどう舵取りしていくか(情報社会をガバナンスする)

よく考えると3は1や2を包含しているのですが、特に3の場合は〈現代社会〉と見分けがつきにくい〈情報社会〉を指しています。また2についてISとの差異に気をつけて強調すべきなのは、ITの設計に際して与えられた目的に適合したプロジェクト・マネージメントの方法だとか、使用する言語は何にすべきかを検討するのではなく、システムが備えるべき機能やシステムが人や組織に対して果たす役割、プロジェクトの目的そのものの妥当性について検討するのがガバナンス論から見た発想なのではないでしょうか。
〈情報社会〉とは何かという根本的な問いになってしまうのですが……。


最近、議論がうまくできていないのではないかと不安な事が多いです。ガバナンスについてもとても理解できているとは言えません。参戦を求めます!

*1:ガバナンス論はIDプログラムのコア科目であるという認識を前提にしています

*2:学部名は静大の場合