子どもの自己決定権が尊重されるには大人も子どもも努力が肝要かも

 今回は静大あかつき寮での生活から「あ〜あ、自分って子どもだなぁ」と感じた経験談を紹介したいと思います。現状批判というより、自己批判がメインです。


 私の住むあかつき寮は自治寮です。つまり管理人がいない、自己決定権が認められた自治組織を持つ寮なのです。寮生は全て*1寮の最高意思決定機関(寮生総会)での議決権を持っており、又常任の役員による意思決定機関である寮委員会の構成員(役員)となるための被選挙権を持っています。
 今日、部屋の相方*2の父親から電話が掛かってきました。曰く、部屋が汚いから片付けていると。確かに最近、片付けを怠っていたのでその点は反省しているのです、いや本当に。プライバシー云々と言う気はないし、寧ろ自分がしっかりしていなかったばかりに相方の親の手を煩わせてしまって申し訳なく思います*3
 けれど彼は寮の体制に対して異議があるようでした。元の住人の荷物がそのままであること(不動産屋が仲介する場合はあってはならない!)や、会議に出席しないと反省文等の処罰があること(アルバイト欠席は認められない)に不満を感じているようでした。前者は寮自治会が引っ越しの干渉(監督)をしないため、後者は義務としての政治参加を強制(監督)しているためというのが現状です。
 彼(父親)は風紀委員会という、分かりやすく喩えると警察&司法を担っている執行機関*4に上記のことを訴えていました。結局、風紀委員だけでは彼と〈合意形成〉できず、警察(リアルに日本の警察です)に調停してもらい、彼には帰ってもらったそうです。そして明日、学校側に申し立てる積もりだそうです。


 先日の寮生総会では、少しガバナンス論を囓っているものだからいい気になって(夜間、寮に女の子を連れ込むことを禁止している現寮則*5の撤廃を求める議論の中で、大学側がいい顔をしないから止めておきましょうという寮長の応答に対して)「あかつき寮は自治寮だから、寮生が深い議論をして決めたことは尊重されるべきで、大学側と交渉する余地は十分にある」と偉そうな発言をしてしまいました。
 なぜ寮長が大学側の機嫌を窺っていたかと考察すると、大学側は寮生にとってパトロンであり、寮生は養われている・世話を受けている・看護されている存在で、何らかの活動がスポンサーの機嫌を窺うのと同じで、寮生は大学側の機嫌を窺う必要があるという当然の感覚に基づくものだと考えることができそうです。
 「法の下の平等」だとか「学ぶ権利」だとかを掲げて、貧乏な学生がちゃんと大学生活を送れるように寮の設置を求め、あるいは“廃寮攻撃”に抵抗し、大学側がその義務を認めたからこそ現在の寮がある訳です*6。つまり寮生の側が権利を主張する過程で形成されてきたのが今の寮なのです。
 大学側の仕事としては〈最低限〉の保障をするだけでよく、他は自治によって解決するのが本来のあるべき姿です。大学側による干渉は自治権の侵害です。相方の父親は恐らく〈最低限〉を巡って異議申し立てをしたのではないかと思うのです(後述)。


 部屋の散らかり具合に関して言えば、私と相方に責任があるというのが私の考えです。相方の父親の介入を許してしまったのは部屋を散らかしていたからです。しっかりしていない〈子ども〉は〈大人〉が世話を焼かなければならないという訳です。〈大人〉という人種は厄介で、経験豊かな上に〈保護者〉であるが故の絶大な権力を保持しています。言い争うのが面倒だからという理由もありますが「自治権」だの「〈子ども〉の尊厳」だのと批判するのは諦めました。
 ちゃんと部屋のガバナンスをすれば問題はないはずです。2人で約束を取り決めて、どこまでの散らかりを許すか(笑)について合意を形成して。「相方と相談して決めたいから余計なことをしないでくれ」と突き返しても良かったんですけれど、いや本来はそうするべきでしょうけれど、〈大人〉としての自覚が足らなかったのでしょうね。二者間では極めてパブリックな問題を有耶無耶にしてきた負い目もあります。
 親や教師の監督から反抗・抵抗・逃避することは妥当なことなのではないでしょうか。


 寮の制度として会議への出席が義務づけられていますが、罰則規定まで設けて〈自治〉を実現させようとしている理由は、実は寮生の殆どが〈子ども〉だからなのではないかと思いました。寮の〈自治〉を保全するため、風紀委員会というシステムが寮生を監督しなければなりません。システム自体は〈自治〉によって維持されているものですから、寮生は完全に従属的な〈子ども〉では〈自治〉を実現することは不可能です。「やらされる寮生」を「やらせるシステム」も寮生起源(oriented)ですから。すると寮生は〈子ども〉であるが、〈大人〉の部分を持っていて、寮独特の〈自治〉を形成していると分析することができるのではないでしょうか。


 相方の父親が問題とした〈最低限〉を寮生の中の〈大人〉が保障するのか、寮生の外の〈大人〉(大学側)が保障するのかは重大な問題な気がします。「何かあったら誰が責任を取るんだ」という常套句が何度耳を通過したことか。安全保障(セキュリティ)は特に最近、話題にされることが多いと思います。セキュリティは保護・監督以外の何ものでもありません。セキュリティの議論に〈大人〉になろうとしている〈子ども〉が参画できないものかと考える今日この頃です。自分のことも満足にできない甘ったれた私が言うのもなんですが、過保護な親が〈子ども〉を量産しているんでしょうね(いや、さすがに親に責任転嫁するつもりは毛頭ないですよ)。子どもどうしの揉め事は当事者解決させるのが〈大人〉の義務であるというのは私見です。

*1:寮に来て15日に満たない人と議長を除く

*2:あかつき寮は2人部屋で、共に部屋を共有している人を相方と呼ぶ

*3:弁明するわけではないが、もっと汚い部屋はたくさんある

*4:元来は戒告・反省文・放寮処分案の提出といった処罰の実行に関する仕事を担当しているが、実質モラルやマナーの啓発、寮内のトラブル調整なども行っている

*5:あかつき寮は男子寮である

*6:寮設置に関しては残念ながら私の身の回りに資料は見あたらないが、“廃寮攻撃”への抵抗運動に関しては「聖隷水際寮の廃寮攻撃に断固反対!」など幾つか資料がある――市寮協発行